1. 肥満症の原因と予防改善方法

1. 肥満とは

肥満とは、体脂肪が過剰に蓄積している状態で、さまざまな生活習慣病の原因となります。肥満になる原因の70%は食べ過ぎと運動不足などの生活習慣によるものです「内臓脂肪型肥満」は高脂血症、高血圧、糖尿病などの生活習慣病を誘発する重大な危険因子です。肥満の判定基準として用いられているのがBMIという指数で、日本肥満学会の診断基準では、BMI25以上を「肥満」としています

※メタボリック症候群ではウエスト(腹囲)が男性で85cm以上、女性で90cmを超えると「内臓脂肪型肥満」と判断されます

1. 減量治療の必要な肥満

国民栄養調査によれば、1960年代以降の日本人のエネルギー摂取量は横ばいというより、減少傾向を示しています。しかし、それはあくまで全体としてのデータで、全世帯のうちおよそ4分の1の家庭が1日に必要エネルギー所要量を20%以上も上回っています。

エネルギー摂取量の内訳では、糖質の摂取量は年々減っていますが、脂肪の摂取量は増えつづけており、成人の3分の1が1日の所要量を超えて摂取しています。こうしたことは、肥満判定基準のBMIを調べた調査でも、はっきりと反映されています。

それによるとわが国では、肥満と判定されるBMIが26以上の肥満者の占める割合は、男性が11.9%、女性が12.3%となっています。実に男性の8人に1人、女性の6人に1人が肥満者であるというわけです。

2. 判 定

数式による方法と計器を用いる方法肥満症を判定するには、脂肪がどれくらい過剰に蓄積されているかを、計器を用いて正確に測定しなければなりません。しかし大がかりであったり、手間がかかったりすることが多いので、計算による方法と、簡単な計器を使った方法が用いられています。

●計算による方法
 ◆BMIの計算式◆ BMI=体重kg÷(身長m)÷(身長m)
 (18.5未満⇒ 痩せ   18.5~25.0未満⇒ 標準   25.0以上⇒ 肥満 )

この指標は、国際的に使われていて、体脂肪量とよく相関するとされています。日本肥満学会では、BMIの計算式を応用し、さらに簡単に肥満度を出せる算出法を定めました。これが標準体重を用いて計算する方法です。

 また、からだのどの部分に脂肪が蓄積しているかによって、肥満の形態を上半身肥満(りんご型肥満)と下半身肥満(洋梨型肥満)とに分類することができます。

特に上半身肥満は皮下脂肪より内臓脂肪(腹腔内の脂肪)が増え、糖尿病や高血圧、高脂血症を起こしやすく、危険な肥満と考えられています。


2. 肥満の原因は二つに大別できます

1. 原発性肥満(単純性肥満)

過食によるエネルギーのとりすぎや運動不足によって起こる肥満です。肥満の90%以上を占めます。過食になる理由にはいろいろあります。食物が吸収されて血糖や脂肪が増えると、ホルモン様物質が増加し、満腹感も覚えます。ところがこのホルモン様物質の増え方が少なかったり、満腹中枢が増えたのを感知できなかったりすると、いつまでも満腹にならず、食べ続けることになります。

食べ物の嗜好の偏りも肥満の原因となります。例えば炭水化物やたんぱく質は1g当たり4kcalのエネルギー量ですが、脂肪は1g当たり9kcalにもなります。脂肪の多い食べ物が好きな人は、同じ量を食べても太りやすいわけです。

早食いも、満腹中枢が働く前にたくさん食べてしまうことにつながりますので、肥満のもとです。運動不足は単に消費カロリーが少ないということより、インスリンの働きを低下させて、脂肪合成能力を高めてしまい、脂肪の体内への沈着を促進し、結果的に肥満を招きます。むしろ、こういった弊害のほうが大きいとされています。

親から太りやすい遺伝因子や生活環境を受け継ぐことによって肥満になります。一卵性双生児で一方が太っていると他方が太る確率は70%と高いのですが、成人すると約30%に低下するという報告も出されています。こうしたデータから肥満は遺伝的な要因だけでなく、環境的な要因も大きく作用するといえるでしょう。同じ家族に太った人が多いのは、食べ過ぎや運動不足ぎみといったライフスタイルを継承してしまうからではないかといわれています。

2. 二次性肥満(症候性肥満)

病気があって、そのために起こる肥満を二次性肥満(症候性肥満)といいます。基礎疾患によって、肥満と同時にさまざまな症状が出ます。

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3. 肥満が原因でまねく合併症

1. 標準体重の人と比較してみると、肥満と判定された人の疾患別の発生率

  1. 変形性膝関節症などの関節障害が1.5倍
  2. 心臓血管障害が2倍
  3. 高尿酸血症・痛風が2.5倍
  4. 胆石と不妊症が3倍
  5. 高血圧が3.5倍
  6. 糖尿病が5倍

また、以前は肥満とあまり関係がないとされてきたがんについても、肥満者には発生率が高いと指摘されています。女性では子宮体がんや卵巣がん、乳がん、男性では前立腺がん、男女に共通して大腸がん、胆のうがんが合併しやすいという報告が出されています。

がんによる死亡率との関係をみても、肥満度が20%を超えると死亡率は標準体重者の1.2倍、40%を超えると1.5倍、50%以上では2倍になるという報告が出ています。

2. 肥満が引き起す病気

「高脂血症」「高血圧」「糖尿病」 ⇒ 「動脈硬化」 ⇒「虚血状態、血管が破裂・詰まる」

  1. 脳・・・脳血管性痴呆=脳卒中などが原因で、脳細胞の一部が死滅し、痴呆が起こるケースが多い
  2. 眼 ・・・網膜症=糖尿病の合併症で、網膜の毛細血管が障害され、失明することもある
  3. 心臓・・・狭心症=心臓の冠動脈が動脈硬化を起こすと、心筋に血液や酸素が届かなくなり機能低下を起こす
  4. 下肢動脈など・・・間歇性跛行=下半身の動脈硬化によって、歩くと下肢の痛みやしびれを生じます

4. 肥満のタイプ(リンゴ型肥満と洋ナシ型肥満)

脂肪がどこについているかで2つのタイプに分類されます ウエストとヒップの比により、上半身肥満(リンゴ型肥満)か下半身肥満(洋ナシ型肥満)がありますW/H比=ウエスト(cm)÷ヒップ(cm)

男性 ⇒ 1.0以上=リンゴ型肥満 / 1.0未満で洋ナシ型肥満
女性 ⇒ 0.9以上=リンゴ型肥満 / 0.9未満で洋ナシ型肥満

1. 上半身型肥満(内臓脂肪型)

◇お腹(内臓の回り)に脂肪がつくタイプの肥満で、中年男性に多く、女性は更年期以降に増加します
◇内臓脂肪は皮下脂肪よりも落としやすいことが特徴です

2. 死の四重奏

◇内臓脂肪型肥満は、糖尿病・高血圧・高脂血症が合併することが多く、心筋梗塞・脳卒中を起こす確率も高くなります。
 メタボリックシンドロームで無い人に比べると、糖尿病を発症するリスクは7~9倍、心筋梗塞・脳卒中を発症するリスクは約3倍にもなると言われています。

3. 下半身型肥満(皮下脂肪型)

◇皮下に集中して脂肪がつくタイプでお尻・太股・下腹部がふっくらとしていて若い女性に多いタイプです
◇皮下脂肪は多くても、内臓脂肪が少ない肥満の人は、糖尿病、高脂血症、高血圧などの症状はあまり出ないようです

4. かくれ肥満

◇過度のダイエットや運動不足を繰り返すことにより、筋肉量が減って体脂肪が増えてしまう状態です
◇体重の変化がなくウエストが増えた状態も「かくれ肥満」です
◇体重に対し脂肪の量が多い⇒ミネラル・タンパク質・糖質の比率が低く、内臓の働きが低下している可能性があります

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5. 肥満の予防

1. 胎児期からの注意が必要

肥満の90%を占める単純性肥満では、食習慣や摂食パターンの異常が大きな要因になっています。したがって、肥満を予防するには、正しい食習慣や摂食パターンを身につけることがポイントとなります。

脂肪細胞に視点を当てて肥満をみると、脂肪細胞の数が増える脂肪細胞増殖型と脂肪細胞そのものが肥大する脂肪細胞肥大型とに分けられます。脂肪細胞の増殖は妊娠末期の3ヶ月間の胎児期、生後1年までの乳児期、そして思春期の3回の時期に集中しているといわれています。

そうしたことを考えると、肥満症の予防は、成人や乳児期にすればよいというものではなく、妊娠中からスタートするべきだといえます。

それには、妊娠中の体重増加は10Kg以内にとどめるようにします。乳児はできるだけ母乳で育てましょう。母乳栄養で育った子どもは粉ミルクで育った子どもよりも肥満する傾向が少ないといわれています。

人間の食習慣や摂取行動は、乳児期における家庭や社会からの影響を大きく受けます。したがって、乳児に正しい食習慣を身につけさせることは、肥満予防のうえで非常に重要です。

2. 次のようなことを心がけましょう

◆毎日、食卓にのせる食品の選択については、テレビCMに影響されやすい子どもの希望に振り回されず、家族それぞれが1日に必要な栄養素の所要量をもとに選びます。
◆満腹感の得にくい菓子、清涼飲料水などを間食として与えないようにします。
◆食べ物で子どもの機嫌をとるようなことは厳に慎みたいものです。

食生活の習慣を子どものうちに身に付けておくことは将来的にもプラスになります。ストレスの多い現代人では人生の失敗、挫折に対しての精神的抵抗力が弱くなっているといわれています。ストレスを発散するために、つい食べてしまうということになりがちです。

過食をしない、栄養バランスのよい食事をとる、適度な運動をする、ストレスをためないといったことは肥満症だけでなく、生活習慣病の予防にもなるので、ぜひ実行したいものです。

3. 肥満防止10か条

  1. 1日3回、一定の規則正しい時間に間隔をおいて食べる。
  2. 早食い、どか食い、ながら食いをやめる。
  3. ゆっくり手間をかけて調理する。
  4. 手の届くところに食べ物を置かない。
  5. おかずの大皿盛りをやめ、食べる分だけを皿に盛る。
  6. 空腹時には買い物に行かない。
  7. 自分の写真や鏡を見ながら食べる。
  8. 情緒を安定させる。
  9. 食事時間、場所、内容を記録する。
  10. 毎日決まった時間に体重を測り、記録し変化をみる。

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6. 自分で出来る肥満の改善

1. 食習慣

◇朝食をしっかり食べ、 昼食は栄養のバランスを考えて(ビタミン・ミネラルが不足すると脂肪代謝が上手くいかない)
◇よく噛んで食べる(30回以上噛む)、ながら食いをしない~(満腹感は脳で感じる)
◇ 間食を控え、夜食は食べない(夕食は就寝3時間前までに)
◇食事の時間を規則正しくする
◇砂糖を含有する食品や飲料は控える (ジュースやコーラは糖分がかなり多い)
◇アルコールを飲む時のつまみは低カロリーに(揚げ物は控えて、野菜・魚介・海藻などがおすすめ)

2. 食事のポイント

◇理想の献立は主食と1汁2~3菜の定食型にする
◇1日30品目を目標にバランスよく食べる
◇満腹まで食べない(腹七~八分目に)
◇野菜や海草類など食物繊維やビタミン・ミネラル類が豊富な食品を摂る
◇味付けを薄めにし、砂糖や塩分を控える
◇電子レンジなどを上手に活用するなど、調理の工夫で脂肪分を控える

3. 生活習慣と運動

◇毎日、適度な運動を心がける
◇睡眠不足、夜更かしはやめ、生活のリズムを大切にする
◇過労に注意、ストレスをためない

4. 運動のポイント

◇カロリーを抑えた食事をしていると、体が消費エネルギーを抑える働きをします(基礎代謝が下がる)
 ウォーキングや水泳などの有酸素運動と筋力トレーニングなどを組み合わせて基礎代謝を高めるとエネルギーの消費を促すことができます

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7. 肥満の治療

1. 食事療法

普通食ですが、メニューを工夫して糖尿病食に近づけます。1日1.200~1.800Kcalまでに抑えます。半年前後を目標に減量値を設定します。

低エネルギー食

1日600~1.200kcalが指示されますが、強い意志と忍耐が必要です。家族や同僚の理解も不可欠です。ビタミン不足に備え、総合ビタミン剤を服用します。砂糖と油脂の使用は制限されます。アルコールも厳禁です。これを守ることができれば、3ヶ月で10kg程度の減量が可能です。

超低エネルギー食

1日200~600kcalが指示されます。たんぱく質を主体とした特別食を用います。以上の食事療法を実施するまえには、必ず次のような手順を踏みます。

食事療法とはどういうものか、いつまでにどれくらい減量するか、管理栄養士が医師の指示に従って栄養指導をしながら、その人に合った内容を設定していきます。栄養指導では、性別、年齢、職種などによって1日の摂取エネルギー量を決めます。次に食品交換表などを使って、食品の選択やエネルギーの計算法を指導します。

さらに、各栄養素の役割を必要摂取量、好ましい食品や避けるべき食品、調味料などについて詳しく説明します。また、外食する際の注意点を挙げたり、正しくない食習慣を修正したり、食事の回数や時間などのチェックをします。こうしたことを患者本人が理解してはじめて食事療法が成功します。

2. 運動療法

どんな運動をどれくらい続けるかを医師と相談のうえ決めます。動きの激しい種目は時間的に長続きせず、グリコーゲンが燃えるだけで適当ではありません。15分以上継続でき、脂肪の燃える中程度、軽度の運動が適しています。そのときの目安となるのが心拍数です。心臓がフルに稼動する最大心拍数の50%程度の運動がよいとされています。

20~30代では1分間に130程度、40~50代では120、60~70代では110が一応の目安です。種目でいえば、ジョギング、水泳、水中ウォーキング、自転車、ウォーキングなどの有酸素運動です。

運動による効果はエネルギーの消費が第一に挙げられますが、最近の研究では基礎代謝の増加、脂肪合成の抑制、インスリン感受性の向上といった側面のほうが肥満解消・予防効果としては重大であるといわれるようになりました

具体的にどれくらい減量できるかは、食事療法との兼ね合いがあり、人によって違いがあります。1回の運動で得た効果は3日以内に低下し、1週間でほとんど消失するので、運動の頻度は最低でも週3回とします。なお運動療法を行ってはいけないのは、一部の高血圧、不整脈、心臓肥大などの症状のある人たちです。

運動療法も食事療法も、早期に行えば行うほど効果的で、楽に実行できるといわれています。

3. 行動(修正)療法

肥満症はその人の食習慣、生活環境、精神的要因などさまざまなものが影響しあって発症します。肥満症の治療の真の目的は体重の減少だけでなく、その体重を維持する適切なライフスタイルの確立にあります。そこで、1960年代末から肥満治療に導入されてきたのが行動(修正)療法です。

具体的には、食事の時間、場所、内容などをノートに詳しく記載し、それをカウンセラーが分析し、過食を引き起こす要因を突きとめ、患者に認識させたうえで、食行動を矯正していきます。

4. 薬物療法

肥満治療の基本はあくまでも食事療法と運動療法です。しかし、その実行はかなり大変です。そこで、食事療法や運動療法で満足な結果が得られない場合、補助的に薬が用いられることがあります。

現在使われているのは、食欲中枢の抑制と満腹中枢の刺激を行うことで食欲を抑制させる薬や、腸管からの糖質の吸収を抑制する薬、ストレス過多や自律神経異常による肥満症の人に用いられる自律神経調整剤などがあります。

5. 外科療法

あらゆる手段を使っても高度の肥満を是正することができない場合には、最後の手段として外科療法がとられます。この場合、肥満度が200%(BMI44)を超える人や合併症が重い人などが対象になります。食物が胃に入る容量を少なくする胃縮小手術が行われます。

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