中性脂肪やコレステロールは水に溶けないので、肝臓や小腸で脂質の表面をたんぱく質の一種であるアポたんぱくで覆った親水性のリポたんぱくに変換されて、体内の隅々に運ばれます。
このリポたんぱくは粒子の比重によって、カイミクロン、超低比重リポたんぱく(VLDL)、低比重リポたんぱく(LDL)、中間比重リポたんぱく(IDL)、高比重たんぱく(HDL)の5種類に分類されます。よく血液検査の結果に出てくるものです。
摂取した脂質はまず小腸で分解吸収され、カイミクロンが小腸壁で合成され血液中に入り、全身をめぐります。よって食後すぐの血液中にはカイミクロンが増加しており、その80~90%は中性脂肪です。このときに【リポたんぱくリパーゼ】という酵素によって一部が分解されエネルギー源になり、残りは肝臓へ運ばれます。
その後、肝臓でVLDLが合成され、からだ中の組織に脂肪分を運びますが、その約55%が中性脂肪です。中性脂肪は途中で細胞に蓄えられたり、エネルギーとして消費されたり、リポたんぱくリパーゼによってIDLとなります。
LDLの半分近くはコレステロールです。LDLは細胞の表面にあるLDL受容体と結合して細胞内に取り込まれたんぱく質と脂質が分解されます。脂質の分解で生じた遊離コレステロールは細胞膜の形成などに利用されますが、過剰になった遊離コレステロールは細胞内に貯蔵されます。
動脈壁の最も内側の細胞下の遊離コレステロールがたまってくると、動脈硬化を引き起こす危険があることから、一般に悪玉コレステロールといわれます。
よく勘違いされている方がおられますが、「コレステロール=悪いもの」ではありません。コレステロールは、細胞膜を形成したり、その弾力性を維持するのに重要な働きをしています。また、コレステロールの半分以上は脳や筋肉に集まっています。神経線維には10~30%のコレステロールが含まれていて、神経の電気信号をスムーズに脳や器官に送る働きもしています。
HDLは肝臓や小腸で作られ、ほとんど中性脂肪を含まずに、約50%のアポたんぱくと、コレステロールやリン脂質からなります。HDLは細胞表面のコレステロールを受けとり、肝臓へ送る働きをするため善玉コレステロールとよばれます。
コレステロールが多いと動脈硬化を促し、少なすぎると血管壁が弱くなって脳卒中などの危険が高まります。健康な状態では、総コレステロール、LDL、HDLのバランスがとれていますが、総コレステロールとLDLが高い値を示すようになると危険な高脂血症となります。
・ 甘いものが好きで間食が多い
・脂っこいものばかり食べている
・ 食事時間が不規則
・お酒を飲み過ぎる
・運動不足である
・ 男性の場合、30歳くらいから急にコレステロールや中性脂肪などの血清脂質の値が上昇してくる
・ 女性の場合、閉経後に急に血清コレステロール値が高くなってくる(女性ホルモンの働きの低下)
・ これは「なりやすい体質」ということで、食事&運動など、生活習慣を見直すことで改善できるようです
・ 食生活の変化やライフスタイルの欧米化によって、日本でも急増中
・ 日本人男性の高脂血症に多いタイプで、アルコールと肥満の影響が大きいと考えられます
・ 膵炎(アルコール多飲者に多い)、脂肪肝、胆石症、また、動脈硬化の原因にもなります
・ 脂肪(飽和脂肪酸)やコレステロールを摂りすぎ、食物繊維を含む食品を摂らないと起りやすい
・ 動脈硬化や心筋こうそく、狭心症など虚血性心疾患を起こす率が高い
・ 糖質、脂肪、アルコールを摂り過ぎると、中性脂肪やLDL(悪玉)コレステロールが増え、善玉コレステロール(HDL)減少することがわかっています
・ 運動不足、喫煙、極端なダイエットでたんぱく質を極端に減らした場合も同様です
・ 善玉コレステロール(HDL)は動脈硬化を防ぐ働きをするため、減ってしまうことにより動脈硬化の危険度が増すとされています
高脂血症と診断された場合、二次性(別の病気がある)か、原発性(他に病気がない)かを調べる必要があります。糖尿病、腎臓病、内分泌疾患が原因で血液中の中性脂肪やコレステロールの値に異常が出る場合があるからです
・糖尿病があると、動脈硬化は急速なスピードで進みます。血糖が増えるとLDL(悪玉)コレステロールが変性しやすくなるなど、脂質代謝異常が起こります。
・インシュリンの作用の低下:すい臓はインシュリンが不足していると考えて、インシュリンを分泌します
⇒高インシュリン血症は血圧を上げたり、血管壁にコレステロールが蓄積されやすい状態をつくります
・慢性腎炎の経過中に起きるネフローゼ症候群では、尿中に排出されたたんぱく質の代わりに血液中のコレステロールが上昇し、動脈硬化を促進します
・糖尿病や高血圧を合併した高脂血症は動脈硬化を促進し、慢性腎不全に陥る可能性があります
・甲状せん機能が低下すると脂質の代謝に影響し、動脈硬化を促進します。甲状せんホルモンは、血液中のコレステロールを低下させる働きがあるからです。
高脂血症の治療には生活の改善、食事療法・運動療法の他、薬物療法があります
家族性高脂血症を除いて、症状が軽い場合は生活習慣の改善により、血清脂質値を下げることができます。生活面で特に改善が必要なのが、運動不足、飲酒と喫煙です。
運動は、長時間たまにするより短時間でも回数を多くし、ウォーキングやエアロビクスダンスといった有酸素運動を継続するほうが、LDLが減少しHDLが増加して体重が減少します。
定期的に運動するには、スポーツジムやスイミングに通う以外に日常生活でも、出来るだけ体を動かすことです。体が軽くなったり、動くのが苦でなくなったと感じる頃には、体重も減り血清脂質の値も下がっています。
アルコールは過飲すると中性脂肪濃度やVLDLを増やします。また急激に大量のアルコールを口にするとHDLが低下するという動物実験の結果もあります。しかし、適度なアルコールはHDLを増加させるという調査もありますから、血清脂質や代謝に影響を与えない程度の飲酒であれば問題ないといえるでしょう。
一般に、1日25mg程度で、ビールなら大ビン1本、日本酒なら1合、ウイスキーならシングルで2杯ぐらいが適量です
喫煙は善玉コレステロールを低下させ、悪玉コレステロールを増加させて動脈硬化を促すことが、実験で確かめられています。タバコの本数を減らしたり、禁煙しましょう。
血清脂質に影響を与える食事の因子としては、総エネルギー量、脂肪の摂取量、コレステロール量、脂肪酸の種類、たんぱく質の量と種類、炭水化物の量と種類、ビタミンとミネラルの摂取量、食物繊維の種類と量などがあげられます。
総エネルギーの過剰の原因が脂肪の取りすぎにあるとコレステロール値が増え、炭水化物の取りすぎが原因であれば中性脂肪値が上昇します。性別や年齢、労働量により多少違いますが、肥満のひとは1日1600Kcalを目安に節食します。(通常、平均2000kcalとされています)
また、総エネルギーに占める脂肪摂取量の割合も考慮しなければいけません。1日の脂肪の総摂取量は総エネルギー量の25%以下に抑えましょう。特にWHO分類でI型やV型の高脂血症の人は、脂肪量を1日20g以下(エネルギー換算で180Kcal以下)にします。動物性脂肪を少なくして、大豆や植物性脂肪で半分以上を補います。
コレステロールの摂取量が多いとコレステロール値が高くなります。1日の量は300mg以下に抑えます。家族性高脂血症では100mg以下に抑えます。コレステロールが多い、鶏卵、レバー。魚卵など動物性食品は控えめにします。イモ類、穀類、根菜類、海藻等に多い食物繊維はコレステロールの排泄を促すので、積極的にとりましょう。
食物繊維では、特にバナナ、アンズなどに多いペクチン、こんにゃくに含まれるマンナンなどの水溶性のものが血清コレステロールを低下させます。
脂肪酸には、飽和脂肪酸、一価不飽和脂肪酸、多価不飽和脂肪酸、があります。このうち、獣肉やバターなどに多い飽和脂肪酸は血清コレステロールを増加させ植物油やマグロ、サバ、イワシなどの青魚に多い多価不飽和脂肪酸は血清コレステロールを低下させます。
なかでも、青魚に含まれるEPA(エイコサペンタエン酸)やDHA(ドコサヘキサエン酸)には、血清脂質を低下させ、善玉を増やし血栓の形成を抑える働きがあります。
また、一価不飽和脂肪酸はオリーブ油、ナタネ油、落花生などに含まれていますが善玉コレステロールを低下させずに、悪玉コレステロールを減らし、虚血性心疾患の予防に有効です。飽和脂肪酸と一価不飽和脂肪酸、多価不飽和脂肪酸の割合を1:1.5:1にします。
タンパク質では、動物性タンパク質の摂取は血清コレステロールを増加させ大豆などの植物性タンパク質は血清コレステロールを低下させます。動物性タンパク質と植物性タンパク質は2対1の割合で摂取するとよいでしょう。
炭水化物では、しょ糖などの糖質が血清中性脂肪を増加させるのでジュースやお菓子の摂取は注意が必要です。そのほか、ビタミンCが血清コレステロールの低下に関係しています。ミネラルでは、マグネシウムや銅などが不足すると血清コレステロールが上昇します。
運動や食事によっても高脂血症が改善されない人や、高血圧、糖尿病など血清脂質値が上昇する病気を合併している人、あるいは重度の高脂血症の人には、薬物療法を行います。DLコレステロールを1%低下させ、7年間維持すれば、虚血性心疾患の発症を2%予防できる報告もあります。
高脂血症の治療薬は、脂質代謝改善薬です。別名、動脈硬化治療剤ともいいます。高脂血症のうちでも、高コレステロール血症か高トリグリセライド血症か、さらに症状の重さによっても薬の種類は異なります。
薬によっては嘔吐、皮疹、かゆみなどの副作用が出ることがあります。また合併症によっては、あるいは妊娠時には服用してはいけない薬があるので、そのようなときは必ず医師に告げます。
コレステロールが多い食品は、鶏卵の卵黄、豚や牛のレバー、ウナギやイカ・クルマエビといった魚介類です。これらの食品の過剰摂取はひかえましょう。
高脂血症による合併症、ドロドロになった血液が詰まりはじめると動脈硬化⇒心臓病、脳血管疾患など生命に関わる病気に!
・加齢に伴って生ずる動脈硬化に対して、病的な動脈硬化として粥状動脈硬化があります。
・ 較的太い動脈に発生する動脈硬化で、粥状の固まり(アテローム)が動脈壁に発生します。
・ アテロームの発生した部分の動脈は、破れて出血を起こすこともあります。
・ 粥状硬化の発生しやすい部位は、脳、心臓、下肢などです
・心臓に栄養や酸素を運んでいる血管に動脈硬化が起こり血流が悪くなって起こる障害。
・狭心症・心筋梗塞が代表的な病気
・動脈硬化が原因のものが脳硬塞。
・脳の血管が詰まって、そこから先へは血液が流れなくなってしまうという病気
大豆たん白質成分中のグリシニン、β-コングリシニンは、血中コレステロールや中性脂肪を低下させる作用があるといわれています
リン脂質結合大豆ペプチド(CSHP)大豆中に含まれるペプチドに、リン脂質を結合させたものです。リン脂質を結合させると、前出の大豆たん白質の働きが向上するといわれています。
低分子化アルギン酸ナトリウム海藻類に含まれるアルギン酸から抽出された成分で、腸内で水分を吸収して膨張するときに、余分なコレステロールを一緒に包み込み、そのまま便として体外に排出されます。
コレステロールの吸収を抑制する植物ステロール、便として体外に排出させるキトサン、食物繊維なども、高脂血症の人には効果的な成分です。
◇植物ステロールは主に食用油に配合されています。これは、腸のコレステロールの吸収を抑制する働きがあり、悪玉コレステロールの減少につながります。
◇キトサンとは、海老や蟹の殻に含まれる動物性の食物繊維です。キトサンを摂取すると、腸内で胆汁酸と結合し、消化されずに便として排出されます。
◇食物繊維を含む食品はいろいろありますが、オオバコ科の植物「サイリウム」の種皮に含まれる植物性の食物繊維は、水溶性と不溶性の両者が混在しています。どちらも排便を促すのに効果があります。
小麦胚芽油、玄米胚芽、ホウレンソウ、牛乳、ブロッコリー、芽キャベツ、ピーナッツ。
活性酸素による悪玉コレステロールの酸化を抑制し、過酸化脂質の生成を抑えて動脈硬化を防ぎます
アルファルファ、ピーマン、柑橘類、イチゴ、柿、ブロッコリー、ホウレンソウ、芋類、緑茶 ビタミンEと同じく過酸化脂質の生成を抑え動脈硬化になるのを防ぎます コレステロールを胆汁酸にして腸から体外に排泄するなど悪玉コレステロールを減らす働きがあります
納豆、酵母、ノリ、わかめ、卵、牛乳、ヨーグルト、チーズ、レバー
血管内に付着している過酸化脂質を分解する働きがあるので、動脈硬化の予防には必要なビタミンです 既に動脈硬化を起こしている場合にも、症状の改善がはかることができます
酵母、豆類、レバー、緑黄色野菜
糖質・脂質の代謝を促進、血液循環を活発にし、コレステロールを低下させる働きがあります
イモ類、根菜類、豆類、こんにゃく、きのこ類、海藻類、果物
胆汁酸の再吸収を押さえ、血中のコレステロールの量をコントロールする効果があります
各種ドリンク剤、カツオ、マグロ、イカ、タコ、アサリ、しじみ、サザエ、アワビ、エビ、カニ
肝機能の働きを活発にし、胆汁酸の合成を促進、脂肪の分解を促します インスリンの分泌を促進し、総コレステロールや血圧を正常値に近づけます
腸の中で、老廃物と一緒に、コレステロールや糖質を吸着して排泄する
辛味成分「カプサイシン」が脳にある内臓感覚神経を刺激して、体に興奮作用を引き起こすホルモン 「アドレナリン」が分泌され、体内の中性脂肪が、エネルギーになりやすい脂肪酸に変わる
特にプーアル茶を毎日飲み続けると、コレステロール値、中性脂肪値ともに下がるという報告がある
青魚の脂に含まれるEPA(エイコサペンタエン酸)・DHA(ドコサヘキサエン酸)などが肝臓での脂肪の合成を抑えて、コレステロール値を下げ、中性脂肪を減少させる
肝臓で糖質が脂肪に変わるのを妨げる働きがある
一般の油(トリアシルグリセロール)から脂肪酸をひとつとった形になっているため、小腸で脂肪酸とグリセロールに分解・吸収された後、中性脂肪(トリグリセライド)に再構成されにくい
・ 穀類(米や麦など)
・ 食物繊維(海藻類、豆腐や納豆などの大豆加工品、キノコなど)
・ 緑黄色野菜(にんじん、ピーマン、ブロッコリー、トマトなど)